専任教員インタビュー集

伊藤 俊幸
Toshiyuki ITO
教授/修士(地域研究)
目指すは、日本のおじさん活性化!
「形だけのパーパス経営」を無くす
フォロワーシップを身につけよう
伊藤俊幸

驚いたのは「日本のMBAにはフォロワーシップの概念がないこと」

34年にわたって海上自衛隊や防衛省に勤務し、潜水艦「はやしお」艦長を務めたほか、「えひめ丸事故」や「イージス艦情報漏洩事件」では最前線で危機管理に当たった伊藤俊幸教授。自衛隊を退いた後は、企業の社外取締役を務めるほか、KITにてリーダーシップやフォロワーシップ、リスクマネジメントについて教えています。

なかでも珍しいのは、フォロワーシップに関する学びを提供していること。ひとことでいえば、リーダーをどう支えるか、良きフォロワー(補佐役?部下)とはどのような人材であるべきかを考えるものです。

「私が教授になって一番驚いたのは、社会人の学生のほとんどが、フォロワーシップを初めて聞いたということでした。役員や管理職は確かに自分の部門を率いるリーダーですが、企業全体で見れば、あくまで経営トップを補佐する立場であり、求められるのは具体策の策定です。自衛隊は特にその意識が強く、全体の2割を占める幹部自衛官がまず考えるのはリーダーである総理大臣や防衛大臣から示された「使命の分析」をすることなのです。」

そもそもフォロワーの時にリーダーとともに考える経験をしたことがなければ、リーダーになった時に判断ができるはずがない、というのが伊藤教授の考え。「良きフォロワーだったからこそ良きリーダーになれるのです」と力を込めます。

「では良きフォロワーとは何なのか。リーダーに言われたことをただ実行する人材ではありません。リーダーが示した目標や方針に対して、それを実現するための具体策をみずから提案し実行する人材です。繰り返しますが、自分で考えずに言われたことだけやってきた人がリーダーになっても、絶対に正しい決断はできません。そもそも部下の気持ちを理解できないから誤った指示をだしてしまうのです。」

自律自走型組織を作らないと、パーパス経営は実現しない?

フォロワーシップが浸透した組織は、小グループが自分たちで考えて動く。伊藤教授は、それこそが理想的な「自律自走型組織」であり、近年広まるパーパス経営は「自律自走型組織にならなければ実現できない」と断言します。

パーパス経営とは、企業の存在意義、いわば企業の目指す姿や目的を「パーパス」として示し、それを軸に各組織?社員が能動的に行動する経営手法のこと。

「パーパス経営を説明する際に私がよく用いるのは、自衛隊の『号令?命令?訓令』の違いです。号令は『朝9時発の新幹線チケットを買ってほしい』と、行動だけを指示するもの。命令は『15時に大阪で会議があるので9時発の新幹線チケットを買ってほしい』と、チケット購入の目的も伝えます。3つ目の訓令は、逆に行動を指示せず、目的しか伝えません。つまり『15時に大阪に行きたい』とだけ依頼し、手段は限定しないのです。すると、頼まれた人はどんな交通手段がベストかを考えますし、人によっては15時に誰と会うかを確認し、相手にちなんだ商材の資料まで用意するかもしれません。このように、目的だけ示して現場が手段を考えるのがパーパス経営であり、これは良きフォロワーシップが発揮された自律自走型組織があって初めて実現するものなのです」

しかし日本はフォロワーシップに欠けるため、「いくらパーパスを設定しても、部下たちがその実現に向けてみずから動き出さない『形だけのパーパス経営』に陥る企業が多い」と伊藤教授。フォロワーシップを強調しない日本の学校教育に、警鐘を鳴らしています。

日本企業の成長に向けて、実現したい「おじさん活性化計画」

フォロワーシップのほか、伊藤教授の教えるリーダーシップも自律自走の概念にもとづいています。「自衛隊や軍隊というと“我に続け”のリーダー像を思い浮かべる人が多いでしょうが、米軍も含め欧米の企業では、優秀な部下に権限を委任し、リーダーは支援にまわるサーバントリーダーシップが重視されています。WBCの栗山英樹監督やサッカー日本代表の森保一監督など、スポーツ界もそんなリーダー像が主流ですよね」。

なかには自衛隊の世界と会社経営は別物ではないか、と考える人もいるかもしれません。しかし、「欧米のMBAでは当たり前に軍事関係者が教壇に立っていますし、ビジネス用語の『ストラテジー(戦略)』も軍事用語が起源です。経営学は軍事学のスピンオフとさえ言われるのです」と話します。

伊藤教授にとってもうひとつの専門領域であるリスクマネジメントも、自衛隊で培った危機管理が原点。「リスク対策は、リスクの保持?移転?低減?回避をどう行うかが基本。その考えを伝えてきたいですね」と話します。

「私の個人的なテーマは、おじさん世代に元気を与えること。ベテランの方たちがサーバントリーダーシップやフォロワーシップを発揮して、若い人たちを支援する人材に変わったら日本はまだまだ成長します。題して『おじさん活性化計画』。私みたいな人間がいきなり若い人に語りかけても引かれますから(笑)、ベテランたちの行動を変えたいですね」

話せば豪快で論理的、かたや趣味を聞けばオペラと答え、「米津玄師も歌いますよ」と意外な一面も見せる伊藤教授。自衛隊で培った組織論やリスクマネジメントは、日本のビジネスパーソンへと還元されています。

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