- 虎ノ門大学院ブログ
- 2017年11月01日
KIT修了生インタビュー:仲本剛さん(自動車メーカー)
「知財の仕事への熱意を会社に示すため、入学しました」
仲本 剛さん(33歳)は、沖縄県那覇市出身、大学では精密機械工学を学び、卒業後に自動車メーカーに入社しました。8年間、ソフトウエア開発部門に所属した後、32歳のとき念願の知財部門に配属されました。尊敬する人は「父親です。仕事は建築関係、電気関係ですが、いつもすごいなと子供の頃から思っていました。大学では精密機械分野に進んだのは、同じことをやると父親を抜けないと思ったからです(仲本さん?談)」
■ きっかけは「金属アレルギー」 |
- 仲本さんが知財の仕事に関心を持つようになったのはいつ頃からですか。
知財には、精密機械工学を学んでいた大学時代に関心を持ちました。
大学の演習で、自分に「金属アレルギー」があると分かったので、ものづくりは断念して「知財」へ進路変更したわけです。だから「関心を持った」というより「やむをえず…」ともいえます。
私は中学生の頃から理系志向で、文系は向いていませんでした。小学生のとき国語の試験で10点を取ったことがあります。このとき「作者の言いたかったことは何なのでしょう、みたいな曖昧な世界には付き合ってられないな」と思い、文系に見切りをつけました。
その頃から計算による解の導出は大好きでした。読書は苦手でしたが。
■ 技術者と企業のWIN?WIN関係を築くために |
- 「大学時代に金属アレルギーがあると分かった」とは具体的には
演習のとき、加工時のイオンが不安定な金属を触ると、手が真っ赤に腫れて、それから日焼け後のように皮が剥が落ちるのです。あまり何度も続くので医者に行ったところ「あなたは金属アレルギーです」と宣告されました。
金属に触れないのでは、ものづくりは諦めるほかありません。まあ、しょうがないか、じゃあ、何しようかなと考えたとき、知財とか面白そうだと思いました。
当時は大手半導体メーカーが外国での特許関係のいざこざに巻き込まれたり、青色発光ダイオードの件でも会社と研究者が法廷で全面対決したりしていました。見ていて「どうしてそんなギスギスするのかな、もっと上手くWIN?WINの関係になれないのかな」と思っていました。そして「だったら私が何とかできないか」と、無謀にも思ったわけです。
■ 未知の世界への強い興味 |
- ものづくりは「実物の製造」ですが、知的財産マネジメントは「理屈の世界」です。そこに違和感は感じませんでしたか。
少し感じました。私はもともと「理屈は嫌い。作って動かす方が好き」という性分ですし。でも私は「やったことのないこと」「未知の世界」に強く興味を持つ性分なのです。「好奇心」の方が違和感を遙かに上回りました。
- 知的財産マネジメントとは、特許侵害で相手を訴訟するという「法的な戦い」の世界でもあります。法的闘争に関心はありましたか。
いや、それはないです。
そもそも特許侵害の訴訟って、日本国内の自動車業界ではあまりないんですよ。だから法廷闘争の楽しみ(?)は経験できません。
ちなみに自動車については、他社の侵害を咎める「攻め」よりも、開発段階で他社特許を侵害しないようにする「守り」の方が難しいです。自動車は部品数が一万数千点に及びます。それだけ目を配る範囲が広いわけです。
■ 社会人大学院に興味を持った経緯 |
- さて、仲本さんが知的財産マネジメントの社会人大学院に入ろうと決めた経緯を教えてください。
知財の仕事には大学時代から関心がありましたが、入社後はソフトウエア開発部門に配属されました。そこでの仕事もやりがいがありましたが、やはり知財への関心は続いていました。
とはいえ転属を願い出るからには、その「やる気」を何らかの形で示す必要があります。それには、どうすれば良いか。まず「弁理士の資格を取る」というのは一つの手です。
ただ、この選択肢には「その先、何年かかるか分からない」「知的財産マネジメントの仕事はしたい。しかし弁理士になりたいわけではない」という難点がありました。
弁理士合格を目指すなら、弁理士受験の専門学校に通うのが得策です。しかしそこで学べるのは「弁理士試験合格のための知識」であり、授業内容は5年前と同じもののはずです。
しかし私が学びたかったのは「試験合格の知識」ではなく、「激動期を迎える自動車業界で、どう知財戦略を立てていくか」という、もっとドロドロとしたビジネスの現場に即した知識でした。特に自動車が今後ITと関係を深めるのは確実なので、IT系が充実した授業を受けたいとも思いました。
そんな思いを抱えながら情報収集を続けていたある日、ネット検索を通じて見つけたのが、KIT虎ノ門大学院でした。
■ KIT入学前の印象 |
- KITへの第一印象は?
「社会人だけの学校」という点に強い魅力を感じました。私が欲していたのは「仕事ですぐ使える実戦?実践的な知識」であり、それを学ぶには「社会人だけ」が授業対象の方が良いといえます。例えば、知的財産戦略実務特論の講師陣も、大手企業の知財部長を経験した方ばかりで、実務をバリバリにこなしていた人が多く、自分の指向に合っていました。
とにかく実際の授業を体験したいと思い、まずは「科目等履修生」という形でお試し受講してみました。佐々木剛史先生が担当する授業では「クルマとITが統合される時代の、知的財産マネジメントのあり方」という内容で、まさに私の欲する内容でした。
体験授業で講義の品質が分かったので、ただちに入学を決定。通学スケジュールは、平日と土曜日の週2回にしました。短期集中で学びたかったので1年で修了することを目指しました。
学費は、貯金のほかに教育ローンで賄いました。教育ローンについては「利子部分は、在学期間中に限りKITから全額支給される」という制度があったので、ありがたく使わせていただきました。
その時は「1年後には修了証書を会社に見せて、自分の本気度を示すぞ」という意気込みでした。ところが「KITへの入学?通学の開始」を会社に告げたところ、一ヶ月後には知財部門への転属が決定してしまいました。どうやら入学だけでも熱意の証明として機能したようです。
こうして私は、KITでの勉強と、知財部門での仕事を同時に始めることになりました。
■ KIT入学後の印象 |
- 通い始めてのKITの授業への印象は?
スパルタで良かったです。それぐらいでないと、自腹を切って入学した価値がありません。一時は睡眠時間も削るぐらい懸命に勉強しました。
授業では、グループ演習が度々あり、それを通じて他業界の人、弁理士、弁護士など多くの皆さんに接することができました。多様なバックグラウンドを持つみなさんと真剣にディスカッションを重ねられたのは、良い体験でした。
■ 授業内容は実務で役に立ったのか? |
- 今回はKITでの勉強と、知財部門の仕事が同時に始まったわけですが、KITの授業内容は実務で役に立ちましたか。
はい、役に立ちました。
今回私は、KITでの勉強も、知財部門での業務も、実質ゼロ知識で開始したわけです。この段階では昼間の仕事は、OJTを通じて何とか食いついていくことから始めます。
その後、仕事にも多少、慣れて来ると、外部の特許事務所さんと共同作業することも増えてきます。この時、OJTの知識だけだったらたぶん「特許事務所についていくだけで精一杯」「実質的に言いなり」になっていたと思います。しかし、KITで深く学び、予め視野が広がっていたおかげで、特許事務所に対し「このアプローチではどうでしょうか」というように「提案」をすることができました。
この提案は、生半可なことを言っても相手に見透かされます。必ず、確固たる知識と根拠に基づいて提案しなければなりません。曲がりなりにもそれができたのは、KITの授業のおかげです。
■ 仕事への期待、不安、そして緊張感 |
- いま知財部門への社内の注目度はいかがですか。
「注目」はされています。
知財部門は、以前は「管理本部のひとつ」でした。しかし今は管理本部から離れ「独立部門」になりました。
いま自動車会社は、電気自動車や自動運転など、大きな技術的変革のただ中になります。そうした転換期には知的財産マネジメントの役割が増します。それは単に「特許侵害をしない/させないようにする」のような攻め?守りを意味しません。もっと広大かつ戦略的な「プラットフォーム作り」が期待されています。
プラットフォームの例として、自社の特許を他社へ公開またはライセンスを行う「オープン&クローズ戦略」が挙げられます。妙に特許闘争して縮小均衡するより、ラインセンスを供与しあう方が全体のパイが拡大することがあるのです。
つまり他社に自社の特許を完全解放して、誰もが自由に活動できる「プラットフォーム」を作るわけです。
- 知財部門、前途洋々ですね!
そうですね。ただ「期待が大きい」といっても、それは同時に「どっちにころぶか分からない」「期待外れに終わるかもしれない」という危険をも孕んでいるので気が抜けません。ただ、これから数年が知財部門で働く人にとって、つまり私にとって、この上なくエキサイティングな時代になること、そこだけは間違いないと思います。
■ 先輩修了生からのアドバイス |
- いまKITへの入学を考えている人に先輩としてのアドバイスなどあればお聞かせください。
今思えば、知財部配属と同時にKITでの勉強を始めたのは正解でした。当時は昼は授業、夜は勉強で、朝から晩まで気を張っていました。でも社会人の勉強は短期集中で一気にやる方がいいと個人的に思っています。
授業は超スパルタですが、それぐらいでないと、身銭を切って学ぶ意味がありません。知財について骨太の知識を身につけたい人、知財の仕事でやる気がある人は、覚悟を持って飛び込むのがいいと思います。そうするだけの価値はある授業です!
※ 取材日時 2017年9月
※ 取材制作:カスタマワイズ