アリストテレスは、その師プラトンと共に古代ギリシア最大の哲学者ですが、同時にまた最大の自然科学者でもありました。哲学では特に論理学を重視し、その体系的基礎を築きました。彼はこの論理的推論、論理的厳密さということ、つまり現代でも変わらない「科学的なものの考え方」を確立し、それをあらゆる学問の基礎にすえたのでした。また、自然を研究する場合は、実際の経験-つまり観察-から出発し、それに基づく論理的推論によって研究すべきであるとし、自然科学研究の基本を確立したのです。
彼の思想はプラトンと共に、西欧思想の基本となりましたが、自然科学研究の面でも、動物学、植物学の基礎を築き、特に分類学的方法を確立しました。物理学では、プラトンの影響のもとに、プトレマイオス天動説宇宙モデルの基礎となった天球論を著し、その中でその物質のもっている本性によって、軽い物体は上昇し、重い物体は下降する(落ちる)のだから、軽?重の程度によって落下速度が異なるという落体運動理論、また、放物体については、投げられた時にその物体に“いきおい(インペトウス)”が与えられ、これが空気の抵抗によって徐々に減ぜられて、無くなった時に落ちる。という理論を提唱しました。
この理論は後にコペルニクスやタルターリア、ガリレオその他によって批判され、誤りが正されることになるのですが、中世を通じてキリスト教々会が彼の自然科学を、いわば「自然に関する聖書」として、唯一の権威として認めたので、広範な影響力を持ったのでした。このため、彼の理論によって、正しい科学への発展が遅れた-彼のせいではないのですが-とも言われています。けれども、科学は先行理論の批判によって進歩するのですから、批判すべき巨大な対象が、歴史上こんなに早く出現したということは、科学史上すばらしい事と言えるでしょう。仮にこの阻害を認めても、真の科学は経験的事実から出発すべきということを確立した事は、事実上アリストテレスを「科学の祖」と呼んで良いと思われます。
アリストテレスは 400冊以上の著作を書いたといわれ、その内50冊が現在まで伝わっています。ラテン語に訳されたものが、中世を通じて写本で読まれ、15世紀後半になってからは、ラテン語の刊本が流布し出しましたが、本書は最初のギリシア語原文による著作集で、自然科学に関しては主として運動理論を扱った「自然学」、物質を構成する四大元素(土、水、気、火)を扱った「生成と消滅」、天文理論を述べた「天体と世界」、それに「気象学」が収められています。出版は有名なヴェニスの出版者アルドゥス?マヌティウスによってなされました。
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